朝なけに
降りたM駅は、私の思い描く都会にピッタリだった。


大きなステーションビルから外の歩道橋に出ると、目に入る建物はとても高いし、人だらけで、うちの地元でこんなに人が集まるのはお祭りの時くらい。


こっちに出て来てから、一度くらいは行ってみたいと都会の街に興味は有ったけど、なかなか一人でぶらりと来る勇気もなかった。


「あの、手を繋いでいいですか?
迷子になったら困るので」


「お前、マジ可愛いな」


中さんは、私の望むように手を握ってくれる。
そして、その可愛いは、女としてってより子供に対してのような感じだけど、私を見る中さんの顔が優しくて、嬉しい。


夕べ、真湖さんの代わりでもいいと中さんに伝えたけど、
子供の私には、荷が重いかもしれないな。
きっと大人の真湖さんは、こんな風に中さんに手を繋いで貰わないと、知らない場所や人の多さに不安になったりしないだろうな。


「だから、笑ってろ」


そう言われ、いつの間にか勝手に思い悩んでいた事に気付いた。


「はい。私、子供でごめんなさい」


「は?なんで謝ってる?」


「よく分からないですけど、大人な女性じゃない自分がいたたまれなくて。
こんな風に手を繋いで貰って、本当に私子供みたいで」


「意味分かんねぇ。
お前がガキなのは、ガキなんだから仕方ねぇだろ?」


「そうですね。
大人の中さんから見たら、私はガキで」


中さんよりも、9歳も年下の私。
それでも、ちょっとくらい背伸びして大人振りたいけど、その背伸びの仕方すらも分からない私。


「俺はお前と居て、すげえ楽で。
ちょっとうるせぇと思う時もあるけど。
だから、お前はそのままでいい」


「…はい」


中さんがそう言ってくれるなら、それでいいのかな。


「ガキだけど、女として見てる」


その台詞に、胸がドキンとする。
そして、手を繋いでいる事もドキドキとして来る。



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