朝なけに
そのビルのシネコンの入場フロアへと、向かう。
そこに向かう直結のエレベーターはガラス貼りで外の景色が丸見えで、それにテンションが上がった。


「中さん、凄い!
人だらけ。
うわあ、都会だな」


上昇するエレベーターから見下ろす街並みも、本当に都会。
地元では滅多に見ない車の渋滞も見える。


そうやってはしゃいでいる私を、同じエレベーターに乗っている私の背後に居る若いカップルがクスクスと笑っているのに、気付いた。
それは、嫌な感じで。



「どんだけ田舎から来たんだろうね」


カップルの女性が、男性に言う。


「言ってやるなよ」


クスクスとその男性も笑って返している。
今気付いたけど、このカップルの女性か男性かどちらか分からないけど、すっごい香水臭い。
エレベーターのような密室空間で至近距離だから、凄く匂う。


ふいに、中さんの手がわしゃわしゃと私の頭を撫でる。


「こいつ、こういう所がすげえ可愛いんだよ」


中さんはそう言って、そのカップルの方を見ている。
私もゆっくりとそのカップルの方を振り返った。


「…あ、マジで可愛い」


そのカップルの男性は私の顔を見て、そうポツリと言った。
女性の方は、不機嫌そうに私から顔を逸らした。


エレベーターが目的の階に着き、中さんに手を握られ降りる。
そういえば、ピザ屋以降手を繋いでなかった。


「中さん、ありがとうございます。
さっき、私がからかわれていたのを助けて貰って」


「べつに助けてねぇし。
俺は思った事言っただけだ」


「でも、ありがとうございます。
助かりました」


中さんの事を、一目惚れというか直感で好きになったけど、
やはり私のその直感は間違えてなかったと思う。
こんな素敵な人、他に居ない!


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