2年で離婚予定の妻ですが、旦那様が永久溺愛で逃がしてくれません
『斗真くん、うちの娘を嫁にどうだ?』

二十歳を過ぎた頃、ある式典の場で酒の入った倉橋社長が言った。

俺の父は即座に『いいじゃないか、斗真』と賛同した。

倉橋商事の経営状態が芳しくないのは知っていたが、歴史ある倉橋商事のネームバリューと、そこから他業者とのパイプをつなげることを考えれば我が社にもメリットは大きい。

父にはそういう打算があっただろうし、そもそも互いの家を行き来するようになっていたのも、俺と瑞穂の縁談を視野に入れてのことだったのかもしれない。

その場に瑞穂はいなかったが、俺はまんざらでもなく父親同士の話を聞いていた。

会うたびに頬を染めて満面の笑みを見せる瑞穂は俺のことを好きなのだと思っていたし、俺も彼女以外との結婚は考えられないと思ったからだ。

だが、それは俺の自惚れであり、独りよがりでしかなかった。

瑞穂の俺に対する気持ちは恋愛感情とは違ったのだ。

彼女にとって、俺は兄のような存在でしかない。

咄嗟に『二年我慢してほしい』なんて言葉が出たのは、瑞穂の気持ちをこれ以上蔑ろにしないための苦肉の策だった。

彼女が同意していないのであれば、結婚の話を白紙に戻すこともできなくはないだろう。

だがそれは絶対に嫌だった。

たとえ短い時間でもいい。俺のものでいてほしいと思ってしまったのだ。


「勝手な男だな、俺は」

「何が勝手なの?」

ギクっとして顔を上げる。

ドアに寄りかかり、腕を組んでいるのは一歳年下の弟、幸斗(ゆきと)だった。


< 16 / 123 >

この作品をシェア

pagetop