2年で離婚予定の妻ですが、旦那様が永久溺愛で逃がしてくれません
「瑞穂、斗真さんがいらっしゃったわよ」

母の声だ。もうきたの?

「は、はいっ」

思わず声が裏返り、椅子に足を引っ掛けそうになりながら立ち上がる。

会いたかったけど、まだ心の準備が……

あたふたしながらかがんでもう一度手鏡を見る。

メイクはもう手直しする時間がないし、私の腕ではこれで精一杯だ。

髪をブラシで丁寧にとかし、姿見の前でくるりとひと回りして、ワンピースにしわがないことを確認する。

小花柄のパステルグリーンのワンピースに、アイボリーのカーディガン。

これは午前中にクローゼットから何着も服を引っ張りだし、ひとりファッションショーをしてようやく決めたものだ。

「よしっ」

部屋を出て階段を駆け下り、客間のドアの前で髪の毛を手櫛で整える。

中からはすでに談笑する声が聞こえ、その中には若い男性の声も混じっている。

どうしよう。本当に会える。

胸の高鳴りをなんとか鎮めようと深呼吸をしてからノックをする。

部屋へ入ると、ソファに腰を下ろしている彼がこちらに視線を向けて口元にやわらかく笑みを浮かべた。

「瑞穂、久しぶりだね」

落ち着いたバリトンボイス。緩やかに上がる眉。きれいな弧を描く二重。ミステリアスな雰囲気を漂わせる三白眼。見本のように整った鼻筋と、色っぽさのある形のいい唇。

黒い髪は私の記憶にあるものより少し伸びていて、真ん中で分けている。

以前よりさらに大人の男性の雰囲気が漂っている彼に、『ああだめだ、やっぱりこの人が好きだ』と鼓動が訴えている。

「お久しぶりです、斗真さん」

大人っぽく余裕ぶって微笑もうと思っていたけど、やっぱりそれは無理な話だった。

今私の顔は嬉しさで緩みまくっているだろう。


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