Doll
フローラの目の前には、木造のレトロな雰囲気のあるお店があった。小さな店の中には、フリルやリボンで飾られた可愛らしいドレスを着たフランス人形やクマのぬいぐるみなどが飾られている。人形屋のようだ。

フローラが吸い寄せられるように店のドアに手をかけようとした刹那、店の奥にあるドアが開き、男性が姿を見せる。その姿を見た刹那、フローラの心がトクンと音を立てた。

オリーブ色の瞳に、チョコレートブラウンの長めの髪を束ね、褐色の肌をした二十代前半と思われる整った顔立ちの男性だった。執事のようなタキシードを着ている。

「ッ！ここは！」

男性の顔を見た刹那、フローラは伸ばした手を引っ込める。そして、クルリと店に背を向けて森へと駆け出した。

フローラは幼い頃からいつも、祖父母や両親にあることを言い聞かされていた。それは、「華やかな顔立ちの男性がいる人形屋に入ってはいけない」というものである。

普通の人ならば、彼の正体はわからないだろう。だが、魔女であるフローラにはわかった。先ほどの彼が、人間でも魔族でもないということを……。
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