意地悪な王子様とのヤキモチ争奪戦
「千歳と一緒に食べたかったから……」

千歳は、形の良い唇で、ふっと笑った。

「あ、そゆこと。じゃあ遠慮なく」

千歳は、一口で、チョコチップクッキーを口に放り込むと、私の腰に手を当てて、強く抱き寄せる。

そのまま唇は、一つに重なって、互いの口内に甘いチョコチップクッキーの味が広がっていく。腰が砕けてしまう寸前で唇は、離され、今度こそ、千歳が、意地悪く笑った。

「今日は、ベッドの上で、一晩かけてお礼してあげるから」

一晩かけて、と付けるくらいだ。千歳は、すでに、完璧なまでの朝までのベッドプランを立てているのだろう。

「……ばか。少しは寝かせてよね」

気づけば、暖色系だった空は、ほんのりと藍が深くなっていく。もうまもなく、就業時間も終わりだ。

「颯先輩も帰ってこないだろうし、今日は、僕達も定時であがろ。ミシュラン三つ星のレストラン予約してあるから、リベンジしよ」

ちゃんと、千歳が、私のために、バレンタインのデートプランを立ててくれていた事に、嬉しくてたまらない。天邪鬼(あまのじゃく)で寂しがり屋の私の心は、いつも千歳が、そっと寄り添って、あっためてくれる。

「いいわよ、付き合ってあげる」

もう、少し可愛く言えば良かったかな、と思いつつ、私は、鞄を拾い上げると、千歳に腕を絡めた。
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