後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「美凰」

低い声で名を呼ばれて振り向くと、会いたかった彼が愛おしそうに見つめていた。

少し冷淡そうに見える切れ長の瞳が印象的な、鼻筋の通った秀麗(しゅうれい)なる面差(おもざ)し。ほどよく鍛え上げられた長軀(ちょうく)は美凰より頭一つ分高く、造形美をほしいままにした美男子だ。

(いつの間に好きになってしまったのかしら……)

ただの幼馴染だと思っていた。でも、彼の隣で笑い合う女人が誰かと考えたとき、胸の内に苦い感情が流れた。

「秀快、もう主上との話は終わったのですか?」

「ああ。母妃のところへ向かわれたよ。ところで、その頬はどうした?」

「あ、えっと……これは」

「母妃かい?」

否定はしなかった。
秀快が指摘したのは、美凰の左の頬が赤く腫れてしまっていることだ。
主上に退出を命じられ、碽貴妃と共に部屋を出たときに、私の目の前まで来なさい、と言われた。
素直に従って目の前まで行くと、思いっきり頬を引っ叩かれた。

『よくも息子を(たぶら)かしたわね!あの子は昔から私に従順だったのに!お前のせいよ!』

と、怒気をはらませながら美凰の頬を何度も叩いた。

「すまない……母妃は」

「大丈夫よ。言われなくても分かってるもの。それに、何よりも主上がお許しになられないのだから……」

「父皇は……王妃に迎えては駄目だと仰ったが、静妃として娶っても良いと許可してくださった。だが、その……すまない。王妃に迎えると言ったのに――美凰?」

いきなり美凰に抱きつかれた秀快は驚いたように目を見開いた。

「あなたに嫁げるだけで十分だわ」

美凰の言葉を聞いた秀快は笑みを浮かべた。



「美凰。一生そなたを愛し、守り続けると誓うよ」


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