後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
『わ、私は徐 伯偲(はくし)でございます…!殿下がいらっしゃるとは知らずに無礼を働きましたこと、お許しください……』

当時、八歳とまだ成人していなかった美凰は伯偲という(いみな)しかもっていなかった。美凰というのは(あざな)で、これは成人してから付けられる実名以外の名である。
原則、男子は十六歳で冠を着け字を持ち、女子は十五歳で(かんざし)を着け字を持つ。

『気にしなくて良い。前をちゃんと見ていなかった俺が悪かった。怪我はないか?』

心配そうに顔を覗き込まれ、ドキッとする。

『だ、大丈夫です!』

『ははっ、そんな緊張しなくていいのに』

面白そうに肩を揺らして笑っている殿下に息をのむ。

かっこいい

ただただ、その一言しか出てこなくて惚けていた。


私ってば一体何を考えているのかしら。殿下の顔をまじまじと眺めるなんて恥ずべき行為なのに。

徐家の令嬢として、徐家や父上の面目を潰すようなことをしてはならないのに。

『伯偲?』

『で、殿下!私ごときが殿下に名前を呼んでいただくなど恐れ多いですわ!それに、軽々しく諱を呼んではなりません』

急に名で呼ばれ、慌ててしまう。

『ここで会ったのも何かの縁だ。それに、名は二人だけの時に呼び合えば良いだろ。俺はそなたと仲を深めたい。だめか?』

『……っ!だめでは…ありません』

なぜか断る事ができなかった。

『良かった。では、俺のことも棣と呼んでくれないか?』
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