後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「こちらが徐静妃さまの居所となります。これからは私も徐静妃さまの侍女として誠心誠意お仕えいたしますので、何なりとお申し付けくださいませ」

一人では広すぎるほどの大きさである蘭華殿。庭には池があり、(こい)が泳いでいる。

「とても広いわね。私に仕えてくれるのはあなただけかしら?」

「いえ、私の他に宦官(かんがん)が一人と女官が二人おります。後ほど、こちらへ来るでしょう」

「分かったわ。それと、あなたの名は何というの?」

「名は() 惢真(すいしん)と申します。徐静妃さまの次席女官でございます」

「惢真、これからよろしくね。私のことは美凰と呼んでくれたら嬉しいわ」

「美凰さま」

恐れ多そうに言う惢真の手を握り、話そうとした時、

「いや~、遅れてしまいましたね~。申し訳ございません」

全く申し訳ないと思っていなさそうに、軽薄に笑いながら来た青年。(いな)、彼を青年と呼ぶのには語弊(ごへい)がある。彼が着ている蟒服(ぼうふく)は高級宦官にのみ着ることを許された衣だ。高級宦官の位階は上から太監(たいかん)内監(ないかん)少監(しょうかん)という。これらの高級宦官は数多くいる宦官の中で一握りしかいない。

「遅いですよ、(しつ)少監。何をしていたんですか……」

非難するように桼少監と呼ばれた宦官に言う惢真。

「これはこれは!惢真殿、お久しぶりですね~。実は義妹に浮気がばれてしまいましてね。ほら、ここのとこ赤く腫れてしまっているでしょ。思いっ切り殴られましてね~。いや~、死ぬかと思いましたよ~」

宦官の言う義妹とは恋人をさす。ちなみに、相手が年上でも義姉とは言わないそうだ。

「殺されればよかったのに……」

惢真のつぶやきに苦笑しながら、桼少監の方を向く。
< 22 / 69 >

この作品をシェア

pagetop