後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「初めましてね、桼少監。私が今日からあなたの主になる徐美凰よ。美凰と呼んでくれると嬉しいわ」

「これはこれは!お初にお目にかかります、美凰さま。桼 利欲(りよく)です。俺、そろそろ少監になりたいなあと思っていたんですけど、美凰さま付きの首席宦官になれて嬉しいですよ~。なんてったって、少監になれば蟒服を着れるじゃないですか。これを着ているだけで女人が群がってくるでしょ。まあ、俺の美貌のおかげでもありますけどね」

確かに、利欲の顔は美しく整っており、悲しい事に美凰の平凡な顔とは月とすっぽんである。

「ほらほら、美凰さま。容姿が平凡だからって落胆している間はないですよ。殿下が夜に訪れるかもしれないんですから」

「桼少監、無礼ですよ」

「良いのよ、阿蘭。下手にお世辞を言われるより、本当のことを言ってくれる方が良いわ」

「美凰さまはお美しいですよ。自信をお持ちになってください」

「ありがとう、惢真」

利欲に早く早くとせかされ、身支度のための部屋へ入る。花びらを浮かべた湯船につかり、入念に肌を磨き、女官に身なりを整えられていく。夜伽用の花嫁衣裳に着替えたところで、利欲が衝立(ついたて)の後ろから顔を出す。

「んー、まあまあってとこですねえ。装いは完璧なんだけどなあ、元が平凡だから仕上がりも平凡だなあ」

がっかりしたように溜息をつく利欲を、阿蘭と惢真がキッと睨む。

「失礼ですよ。十分お美しいじゃないですか」

「〝十分お美しい〟じゃ殿下から寵愛されませんよ。皇宮で育った殿下はそこらへんの美姫なんて見飽きているんですから。何か殿下の気を惹けるような特技とかないんですか?」

「琴や舞は一通りできるけれど、琴の名手である王妃さまや、舞の名手である楊静妃、琵琶の名手である喩良妃さまには敵わないわ」

「嘘ですよね!?一体、それでどうやって寵愛を得るっていうんですか!?俺には壮大な夢があるのに!」
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