後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
沈痛な面持ちで言う敬事房(けいじぼう)()太監に舌打ちしそうになる。

(この日のために、わざわざ体調がすぐれないふりをして夜伽を先延ばしにしていたというのに。)

美凰を指名したのに、王妃を(すす)めてくる李太監は王妃の回し者だろう、と思いながら溜息をつく。

「今夜は徐静妃を指名した。異論はなかろう?」

「ですが……王妃さまを差し置い――」

「よく聞け。私が誰と夜を共に過ごすかは私が決める。そなたに権限はない」

有無を言わさぬ声で言うと、しぶしぶ従った。





――蘭華殿――

「我が生涯の主、徐静妃さま!なんとお美しい!主上が生涯で最も愛した馬皇后さまにも劣らぬ美貌がまばゆく光り輝いております!殿下が夜伽に命じるのも頷けます!」

利欲が上機嫌で賛美してくる。

「まったく調子がいいんだから……」

惢真が呆れながら、支度を済ましてくれる。

「燕王殿下のおなり」

宦官の声が正庁(ひろま)に響き渡る。

「皆、楽にせよ」

「感謝いたします」

女官や宦官たちはすぐさま立ち去り、残ったのは敬事房太監だけである。
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