後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
――正嘉殿――

正嘉殿は王妃に次ぐ良妃が住まう殿舎である。王妃一人のみで住む長紀殿とは違い、良妃は正嘉殿の(あるじ)として就くだけで、令衣以下の妾と共同生活になる。
現在の主は良妃である () 海儸(かいら)だ。

「喩良妃さま、殿下が徐静妃の元へ向かわれたそうです」

「徐静妃ですって!?」

「ええ」

侍女の報告に、思わず持っていた茶杯(ゆのみ)を床に投げつける。

「秀女選抜のときにも邪魔をしに来た女ね?」

「その通りでございます」

「目障りな女ね。私は二日も空閨(くうけい)を囲ったというのに、待たずして夜伽ができるなんて!許さないわ!」

憤慨していると、もう一人の侍女が入ってきた。

「喩良妃さま、王妃さまと楊静妃さまから贈り物が届けられました」

王妃の侍女が花瓶(かびん)を、楊静妃の侍女は漆器(しっき)を持って来ていた。

「この花瓶は青磁(せいじ)花瓶ね。それは彫漆(ちょうしつ)のようね。王妃さまと楊静妃に礼を伝えてちょうだい」

かしこまりました、と言って去っていく。

「なぜ、王妃さまと楊静妃さまは高価な贈り物をくださったのでしょうか」

「楊静妃は私の機嫌を取りたいだけよ。王妃さまは……私と同じく徐静妃を良く思っていないのだわ」

途端に、海儸は満面の笑みを浮かべる。まるで、楽しみを見つけたかのように。



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