後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
玲雲の母君は六年前に病で他界している。扇子は亡くなる直前に譲り受けた物だったそうだ。

「あれは母上が父上から求婚された時に貰った大切な物だから大事にしてね、と言われていたのに……」

「とりあえず、正嘉殿へ帰りなさい……。ただでさえ、あなたは私のせいで目を付けられているのだから、あまり私のところへ来てはいけないわ」

玲雲は喩良妃の居殿である正嘉殿に住んでいる。(あるじ)である喩良妃からは、気が弱いうえに美凰と仲が良いということで嫌がらせを受けているのだ。

「でもっ!母上の形見が……!」

「帰りなさい。これ以上に酷い目に遭ったらどうするの?」

無理やり玲雲を帰らせて、どうしようかと考える。

「美凰さま、あんな風に突き放して大丈夫だったのでしょうか……?郭御華さまはとても傷ついていたように思いますが……」

「良いのよ、惢真。私に頼ってしまっては玲雲が(あや)うくなってしまうのだから……」

「美凰さまなりの気遣いなのですね」

「ええ、玲雲を寵愛争いには巻き込みたくないの……。それより、どうやって喩良妃から返してもらうか考えないと……」

直接返してほしいと言っても喩良妃は聞き入れないだろう。
秀快に説明して取り返してもらうのは確実だが、喩良妃が助けられた玲雲を逆恨みして、嫌がらせが激化すれば元も子もない。

「阿蘭、殿下に文を書くから届けてちょうだい。惢真は叔母上から扇子をもらってきてちょうだい。できるだけ高価な物をとね」

「かしこまりました」



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