後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「美凰さま!夏児がお会いしたいと」

「通してあげて」

切羽詰まった様子で夏児が駆け込んでくる。

「徐静妃さま!どうか、どうかお助けください!」

「何があったの?」

「お嬢様が喩良妃さまの扇子を盗んだと疑われているのです!」

「なんですって!?証拠はあるの?」

「……お嬢様の寝台の下から破り裂けた扇子が見つかりました。でも、お嬢様はそんなことしていません!!」

「ええ、もちろん分かっているわ。惢真は殿下に知らせてきてちょうだい。私は喩良妃の元へ向かうわ。夏児も来なさい」





「郭御華、いい加減に罪を認めなさい。お前の部屋から見つかったのよ」

喩良妃はつまらなさそうに郭御華を見る。折檻(せっかん)されている玲雲の身体には無数の傷ができている。

「私じゃありません!お願いですから私の話を聞いてください……!」

「強情ね。だれか、この女を外で跪かせなさい」

季節は夏。まだ蒸し暑さが残る八月である。特に今日は酷暑であり、炎天下に長時間さらし続ければ命の危険がある。また、王府内の地面は石が敷き詰められており、太陽の熱を吸収した地面は焼けつくような熱さだ。

宦官たちの手によって無理やり跪かせられた玲雲は、苦悶(くもん)の表情を浮かべ、声にならない悲鳴をあげる。

「徐静妃が喩良妃さまに拝謁いたします!」

突然、門の方から声が響き、喩良妃は顔をしかめる。

門衛たちの制止を振り切って入ってきた美凰は、型通りの万福礼をして玲雲の方に駆け寄る。呼びかけてみるが、焦点が定まっておらず、呼吸が浅い。

「徐静妃、勝手に入ってくるとは……己の立場を分かっていないようね?」

「申し訳ございません。郭御華にあらぬ疑いがかかっているとお聞きし、急ぎ参った次第でございます」

「その言い様では私が濡れ衣を着せているみたいね」

「滅相もありませんわ。ですが、郭御華がしたとは言い切れません」

「言い切れないですって!?この女の寝台の下から見つかったのよ!殿下から頂いた大切な扇子がずたずたにされた状態で!!殿下にどう詫びろと言うのよ!!」

あまりの剣幕に黙っていると、喩良妃は美凰を指して小さく笑った。

「そう、お前なのね。お前がこの女に命じたんでしょ!!こんな臆病な奴なんて盗む事すらできないはずだもの。お前がやらせたんでしょ。寵愛される私を妬んだんでしょ?」

「ご自分でなさったくせに、素晴らしい演技力ですわね」
< 54 / 69 >

この作品をシェア

pagetop