後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「王妃さま、正嘉殿は反対方向でございますよ」

侍女の言葉に王妃はキッと睨みつける。

「誰が郭御華の見舞いになんて行くのよ。どうでもいいわよ」

吐き捨てるように言う王妃に侍女は謝る。

「最近、夜伽が少なかったのに懐妊するなんて……!忌々しいわ!」

「落ち着きください、王妃さま。お産は常に危険と隣り合わせですわ。いくらでも消せる機会はありましょう」

「いいえ……無事に産んでもらうわ」

「ですが、殿下は表立ってとは言いませんが徐静妃を寵愛しておりますわ。もし王子を産めば、王世子(おうせいし)の位にするのでは?そうなれば徐静妃は正妻扱いになってしまいますわ」

「たかが側室の息子が王世子?いいえ、私が王世子を!跡継ぎを産むのよ!徐家の娘に同等の位に就かせはしない」

王妃は振り返り、蘭華殿の方を睨みつける。

「正妻の座は私のものよ。だれにも譲りはしないわ」





〈記録〉
洪武11年7月23日、産み月からひと月ほど遅く産気づいた徐静妃は難産の末、長子となる王子を産んだ。字は高熾(こうし)と名付けられた。生まれつき体が弱いため、燕王殿下は高熾王子の周りに細心の注意を払うように厳命した。

〈秘記録〉
徐静妃が妊娠している間に流産した妃は三人。原因は三人とも食事で魚の体内に含まれていた水銀を口にしたため、母体だけでなく胎児にも影響した。




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