後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「他に奏上する者はいるか?」

「主上、(しん)めが奏上したく存じます」

声を上げたのは美凰の父である徐達だ。父皇と徐達は建国前から共に力を(たずさ)えてきた。中原を統一してからも、内政(ないせい)北伐(ほくばつ)などに関して数々の功績を残している。

「徐達か。申せ」

「我々明は(げん)をモンゴル高原に追いやっておりますが、依然として勢力を有しております。いつ盛り返して攻め込んでくるか分かりませぬ。北方の要衝(ようしょう)である(えん)に軍を派遣するべきかと」

「うむ。他の者は意見はあるか?」

「主上、申し上げます。私が思うに、軍を派遣するべきではありません。元は内政面で混乱が生じております。国力が回復するまで時間がかかるでしょう。今は我が国の内政に重点を置くべきです」

翰林学士承旨(かんりんがくししょうし)である(そう)(しん)が反対意見を発すると、すかさず徐達が反論するために口を開く。

「元を侮りますな。仮にでもこの中原を統一し、百年も治めていたのですぞ。国力では明の方が上ではあるが、相手は(いくさ)()けた北方民族。我が軍が不利になるのも時間の問題です。今のうちに叩くのが最善でしょう」

「前回の戦からあまり経っていないのですぞ。戦力が十分ではない状態で戦をするなどあまりにも無謀では?」

「二人とも落ち着くのだ。宋慎が言うように我が軍の戦力は十分ではない。そちは一体誰を将軍に据えて派遣すべきと考えておるのだ?」

お互いに一歩も譲ろうとしない状況に、主上が間に入る。

「戦経験のある(しん)王殿下、(しん)王殿下を派遣するべきでしょう。燕王殿下も戦に出れる年頃ですからこの機会に初陣(ういじん)するのが良いかと」

急に徐達から自分を指名された秀快は驚く。

「と、徐達は言っておるが、燕王はどう思う?」

「ぜひともお受けしたく思います!」

「よかろう。勅命を下す。元を討伐(とうばつ)するために、秦王、晋王、燕王を派遣する。国のために力を尽くせ」

「謹んで承ります!」

嬉しさで声が震えているのが分かる。



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