後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「い、行きません!」

「美凰……」

「私のような平凡な女子には恐れ多すぎます。そ、それに……私は秀快のこと、なんて……」

好きじゃない、と言おうとしたのに言えなかった。まるで声の出し方を忘れたかのように。
嬉しい、嫌い、怒りなどの色々な感情が複雑に混ざり合いながら、胸に流れてきたせいで……。

「とにかく、私は秀女選抜に出ませんので、ご冗談はよしてください」

そう言い捨て、その場を去る。
そのまま、叔母に会いに行こうとすると、声を掛けられた。

待っている、と。






――秀快の秀女選抜の日――

美凰がいたのは、秀快の秀女選抜が行われる碽貴妃の住まう宮・長春宮(ちょうしゅんきゅう)―――ではなく、徐昭儀が住まう祷容殿(じゅようでん)である。祷容殿は歴代の寧妃が住まう永和宮(えいわきゅう)の中にある。
常ならば、叔母と会えたことによって機嫌が良い美凰なのだが、いかんせん今日は不機嫌だ。その理由は、叔母が秀快の秀女選抜に出すために、あれやこれやと美凰を着飾らせているためである。

(叔母上ったら、話が違うじゃない!珍種の茶葉があるというから来たのに……!)

先日、人一倍、茶に対して愛着が強い美凰の元に文が来た。

郭姐(かくねえさま)から異国の茶葉を頂いたのよ。今度、一緒に飲みたいから会いにいらっしゃい』

郭姐とは、父である徐 達(じょ たつ)の親友・郭兄弟の妹、郭寧妃のことである。
寧妃といえば、十二妃の最下位、昭儀の一つ上の位だ。
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