後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「殿下の準備をするのは私の役目よ!なぜ徐静妃なの!?」

古来より、皇族や大将軍が出陣する際には、皇帝や大勢の大臣などたくさんの人に見送られる。

その準備を行うのは正妻の役目である。何らかの事情で正妻が役目をまっとうできない場合は、正妻の位に次ぐ側室が行うことになっている。

しかし、王妃である靇月に次ぐのは喩良妃であって、徐静妃ではない。ましてや、靇月には側室へ役目を譲らなければならないほどの事情はない。

「殿下は今まで私の王妃としての尊厳を守ってくださったわ……だから私は殿下のために良妻になるように(つと)めてきた。寵愛されている他の妃たちがいても妬むことなく、まるで実の妹のように接してきたのに……私から正妻の役目を取り上げるなんてひどいわ」

「王妃さま、燕王殿下はあの女狐に(たぶら)かされたのでしょう。ここ最近、夜伽に指名されているのは徐静妃です。きっと殿下を誘惑して自分が正妻になるつもりなのですよ。王妃さまが先月流産なさったのもきっとあの女狐の仕業ですわ。このままでは女狐の思い通りですよ。正妻が誰なのか今一度お示しになられては?」

侍女の勧めに少し目をつぶって考えたのち、気持ちを抑えるかのように息を吐いた。

「いいえ……何もしないわ」

「王妃さま!」

心配そうに声を荒げる侍女を制す。

「燕王の正妻は私よ。たとえ、徐氏が殿下を誑かしたところで、張家の娘である私を差し置いて徐氏が王妃になれるはずがないわ。それよりも、皇太子殿下が戻ってこられたと聞いたけれど本当かしら?」

「ええ、燕王殿下と親しそうに談笑されたそうですわ」

「そう……ちょうどいいわね」



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