後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「殿下が出陣?その準備を徐静妃に任せるですって?なんて事の運びが早いのかしら……殿下もついに行動に移したのね」

「ええ。王妃さまが大層お怒りだとか」

侍女からの報告にとても可笑しそうに笑いだした楊静妃。

「あの善良な仮面をかぶった王妃が他の者に知れ渡るほど怒りをあらわにするなんて傑作(けっさく)だわ!そのときの様子をこの目で見られなかったのが残念ね」

「ですが、王妃さまは表向きには徐静妃と対抗する気がないようです。このままでは徐静妃の権威がさらに上がり、娘娘(おじょうさま)に不利ではございませんか?何か策を講じた方が良いのでは?」

「それなら心配しなくても大丈夫よ。徐静妃を(うら)んでいる者などたくさんいるわ。徐氏ごときに自らの手を汚すだなんて、そんな愚かな真似(まね)はしないわよ。成り行きに任せましょう」

扇子(せんす)(あお)ぎながら楽しそうに言う楊静妃を見た侍女は察したようにうなずく。

「なんにせよ、徐静妃が今回を乗り切れるか見物(みもの)ね。楽しくなりそうだわ」

娘娘(おじょうさま)に疑いがかからないように細心の注意を払いますわ。何かご指示はございますか?」

「いいえ。それより、ちゃんとあの者(・・・)に伝えた?」

「ええ。〝楊静妃さまのご教示に従います〟とのことです」

「そう?あの者も単純ね。まあ、その方が使いやすいのだけれど」

そう言いながら目を細めて不敵に笑った。





――蘭華殿――

「美凰さま、旦那さまから文が届いていますよ」

阿蘭が嬉しそうにしながら呼ぶが、反応はない。

「美凰さま?」

室内を見て回ると、倒れている主の姿があった。

「美凰さま!美凰さま!だれか!侍医を呼んで!」

「阿蘭さん、何があったの?!」

「美凰さまが倒れているの!早く侍医を呼んで!」

「わ、分かったわ……!」

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