後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「そうだと良いな。だが、怖くもあるんだよ。私にはこれまでもこれからも茗玉だけだ。茗玉以外を愛さないんじゃなくて、茗玉しか愛せないんだ。妻も子供もいても、茗玉以外はいらないと思ってしまうんだ。妻に愛してると言われても、息子や娘に父上のことが好きだと言われても、何とも返すことができない。ひどく後ろめたくなる」

「大兄……」

「最低な夫で父親だろ?妻だけでなく、血の繋がった子供たちですら愛せないんだ」

失笑する大兄に何と返せばいいのか分からなかった。

大兄は茗玉姐さんが亡くなってしまってから、心を茗玉姐さんに預けてから時が止まってしまっているのだろう。大兄の心には茗玉姐さんしか映っていないのだ。他の者が入り込む余地がないほどに。

すべてが憎くて、無情な天に向かって何度も泣き叫んでいるのを見たことがある。

どうして我々を引き裂くのだと、どうして茗玉を奪うのかと。

「いいえ……大兄が苦しんでいるのを私は知っています。茗玉姐さんの後を追いたかったであろうに、皇后さまの願いを聞き入れて決して楽ではない皇太子の責務を果たしていることを知っています。こんなにも……苦しい思いをしている大兄をどうして責めることができましょうか」

辛いのは大兄であるはずなのに、秀快の目には涙が浮かんできた。

「秀快、泣くな。お前は徐家の令嬢と結婚できたのだろう?お前が幸せならそれでいい。私のような辛い思いはしないでほしい」

「大兄……」

「ほら、泣きやめ。格好悪いところを見られたくないだろう?」

大兄はそう言って、微笑みながら涙を拭いてくれた。

「言い忘れていたが、張王妃には気を付けろ。あれは茗玉を殺した」

「王妃が?信じられません」

「だろうな。あれは仮面をかぶるのが上手い。騙されるのも無理はないだろう」

とても信じられないが、大兄が冗談を言っている様子でもないので頷く。

「分かりました。気を付けておきます」

「ああ、じゃあな」



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