後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「王妃さまお呼びですか?」

侍女の声には振り返らず、手紙を渡す靇月。

「これを父上に渡してちょうだい」

「これは……?」

「皇太子殿下の悪い噂よ。父上にできるだけ皆に知れ渡るようにしてと伝えなさい」

「それは構いませんが、なぜ急にそのようなことを?」

「皇太子の座から引きずり降ろすためよ。そして我が夫、燕王殿下を皇太子に据える」

「ですが……王妃さまは皇太子殿下を慕っておられていたのでは?」

困惑した様子で聞く侍女に靇月は鼻で笑う。

「慕っているからといって、いつまでもこの状況下に私が甘んじるとでも?皇太子殿下はまだ茗玉に心をとらわれているのよ。忌まわしきあの女に。それなのに私は好かれるどころか憎まれている。殿下の心を見ることすら叶わない」

「ですが、こんなことをすれば皇太子殿下にさらに憎まれてしまいますよ?」

「それでいいのよ。もっと憎まれてやるわ。殿下が茗玉ではなく私しか考えられないように」

「本当にそれで良いのですね?」

「ええ、しっかりと考えて決めたことよ。後悔はしないわ」

迷いのない目で力強く言う靇月。

「……わかりました」

侍女はしばし逡巡したのち、一礼して去っていった。



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