死神キューピッド
嘘をついたことだって、なかった。


なにを言っても虹太を引き留められるとは思えなくて、虹太のシャツの裾をただ掴む。


「お願い、……虹太」


「頼むから、困らせるなよ。……俺、ずっと一緒にはいてやれないかもしれないけどさ。柚には幸せになってほしいって、マジで思ってるから……」


「……なにそれ」


一晩中、虹太に抱かれて、奪われて。    


どうしてそんなことを、言うの?


虹太の肌の感触も、その体温もまだ生々しく残ってるのに。


「ごめんな。柚には幸せになって欲しい。本当に。……心から、願ってるよ」


「意味わかんないよ。……そんなこと言うために、戻ってきたの?」


声が、震える。


涙が、にじむ。


じゃ、どうして、こんなにたくさんの虹太の痕を、私の身体に残したりするの?


「……虹太、いかないで」


みじめでいい。


ぶざまでいい。


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