死神キューピッド
存在
どれだけ時間が過ぎたんだろう。


もう朝なのか、夜なのかもわからない。


白い壁に虹太と並んでよりかかり、どちらともなく手を握る。


どこかに体重を預けてないと、座っていることもできそうにない。


「先輩によると、……俺はもうすぐ、消えるらしい」


「……先輩?」


「ああ、俺より先に死んだ幽霊の先輩。俺が死んだ場所、わりと事故とか多い場所らしくて、いろいろ進行が早いらしい」


「……事故?」


記憶の底で、なにかが香る。


濃厚で生温い香り。


強い衝撃、虹太の体温。


鼓膜を麻痺させたあの声は、


「お前は、そういうこと知らなくていい。知らないほうがいい。むしろ、忘れて。そういうことを知られるのはあんまりよくないらしいから」


ひとつ息をすって、虹太が続ける。


< 54 / 117 >

この作品をシェア

pagetop