死神キューピッド
「おい、」


もういいだろ、そう言いながら振り向いて、息をのむ。


俺の腕をつかんでいるのはハルキではなく、ハルキの母親だった。


「あ、あ、あの、この前の御礼をさせて、いただくことはできますか? ハルキを助けていただいたお礼を」


震える声に、揺れる瞳。


よくよく見てみれば、清楚で控え目な美人。


着飾れば男どもの目を惹きつけてやまないだろうに。


遠慮がちに俺に向けられた瞳の淵が、うっすらと赤く染まっていて、艶っぽいその目つきに、脳内でアラートが鳴り響く。


こんな美人が、俺にこの目つきって。


新手の詐欺……か?


美人局とか?


親しくなったところで、怖い筋のおっさんが現れて、最後の一滴まで搾り取られんのか?


勘弁してくれ。


金のない俺は、臓器を売ることになりかねない。


じっと視線を向けると、とたんにオロオロしはじめる。


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