死神キューピッド
こんないかつい顔でにらまれたら、そりゃ怖いだろうな。


って、……全然、詐欺師には見えねえな。


つうか、それにしては下手くそすぎる。  


ま、俺には金なんてないし、盗られるものもなにもない。


「べつに礼とかされるようなこと、してないっす」


言いながら、あの日のことが思い出されて、ぬぐいきれない罪悪感が足下から這い上がる。


事故のあった踊り場を、そろそろと、仰ぐ。


俺は、なにもできずに、あの場に立ち尽くしていただけの役立たずだ。


いまだに目をつぶると、赤く飛び散った肉片が脳裏に浮かぶ。


数分前は、ひとりの人間だったはずの赤い塊。


何かを思考していたはずの脳は砕けて、想いを抱えていたはずの心臓は潰れた。


飛び散った肉体と、うごめく子供に、生と死の狭間のようなものを見た気がした。


「あの、……その」


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