絶叫、そして契り/『ヒート・フルーツ』第1部終盤エピソード特別編集版❣

私の絶叫

その1
麻衣


車の中では皆、無言だった

さすがのアンコウもここに来て、余分な言葉は不要と捉えたかな

それとも、私の気を散らさないようにとの配慮からか…

安全運転で走ること約25分…

到着したわ…


...


「じゃあ、行ってきますんで。とにかく、ここから先には来ないで、ここで待っててくださいよ。いいですね?」

「了解した。二人にもここで待機させる。麻衣、しっかりな」

先輩…

ドア側の久美は神妙な顔つきで手を振ってる

静美は両手で目をあてがって、涙を押さえてるようだ

よし、行くぞ!

私は白いサニーのエンジン音を背にして、重い一歩を踏み出した


...


西咲学院…

さすがに比較的あたらしい私立高だ

私の通う大河原のボロ校舎とは雲泥の差だわ

うーん、放課後ってことでこの時間にしたけど、なかなか下校する生徒が来ないな

ああ…、待ってられないし、部活やってる人間に声掛けするか

私は校門をくぐり、校庭内に入って行った


...


グランドでは、いくつかの運動部が練習中だった

私はテニス部を選んで、コートの後ろで玉拾いをしている女子生徒の一人に声をかけた

「…練習中、すいません。私は大河原高校から来た本郷麻衣という者ですが、本日は御校1年の本田多美代さんに所用があって参りました。恐縮ですが、校門の外で待ってますので、呼んできていただけますか?」

「…あなた、大河原の本郷さんって言ったわね、今?」

「はい、確かに…」

すると、その子は他のみんなのところへすっ飛んで行ったわ

なるほど…

あちらさん、学園を挙げて私をお持ちかねってことだったみたいだわ


...


テニス部員4人でごそごそやってたら、サッカー部の男子が3人寄ってきたわ

いやあ、まさしく、”今日”を想定して皆さん、手負いの狂犬のフォローアップを敷いてたようね

うん?

校舎に向かってテニス部1人、サッカー部2人の計3人が走って行ったぞ

そして私の元には、テニス部2人が戻ってきた

「…ああ、今呼んできますので…。校門の外じゃなくて、こちらへどうぞ…」

二人はそう話し終わる前に、私の両脇について、体育館の裏側へ誘導した

フン…

思った以上の”歓迎”ぶりじゃないのよ

おそらく、私が来た時の段取りはばっちり組立てしていたようね

それならそれで、面倒省けていいや

さあ、運命のゴングはもう間もなくだ…




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