ソルティキャップ
普通病棟の3階の一番端っこ。301号室。
ノックしてドアを開けると、部屋の中からひんやりとした冷気が吹き込んできた。
そして、部屋の窓際には酸素マスクをつけながら、ベッドで寝ている彼女の姿があった。倒れたときよりは、穏やかに息をしている。看護師の目つきも柔らかくなっていた。
「あの、、えっと…」
俺は彼女を前にすると、言葉に詰まってしまった。心配すべきか、謝罪をすべきか、わからないのである。
俺が困っていることを察したのか、彼女は、
「すいません、突然倒れたりなんかしたら、驚きますよね。」
と言って優しく笑った。
「あ、あの…俺のせいでしょうか…」
彼女の体調ももちろん心配だったが、今は、なぜ俺の前で倒れたのか、ということが気になってしまった。
「うーん、まあ根本的な原因は、そちら側にあるのかも、しれないですね〜」
動転している俺に対し、彼女は当たり前だというように言った。
「え…俺に…俺、何か…」
「あーでも気にしないで下さいね?悪いのは私ですから。」
戸惑う俺の言葉を遮った、彼女の発言に、俺は余計に混乱した。
「いや、でも、今原因は俺だって、」
「それもそうなんですけど、ま、色々あるんですよ。」
酸素マスクをつけているとは思えないほど、彼女の声ははっきり聞こえていた。
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