春風、漫ろに舞う
「着きました。」


「…ここは…。」



着いたのは、港近くにある工場の倉庫。
街外れにあるんだっけ…?
実際に来るのは初めてだ。


車から降りて、辺りを見回していると。
十葵が目で合図をしてきた。


中から何か、鈍い音と聞き慣れない呻き声みたいなのが微かに聞こえてくる。



「…ここに、藤雅がいるの…?」


「うん。
…今から君が見るのは、きっと今まで見た事のない若だと思う。
もし、無理だと思ったら後ろを向いて。
見るのも辛いだろうけど……頑張って。」


「芽来さんは、俺たちの後ろにいて下さい。
俺たちから離れないで下さいね。」


「……!2人とも、スーツが…。」



今見て気がついた。
2人のスーツが所々血で汚れている。
襟なんてヨレヨレだ。


いつもビシッと決まっているイメージがあったから、こんなの初めて見た。



「大丈夫。今日で終わるから。」



わたしの言葉に、ウインクをしつつ。
そう返した十葵は倉庫のドアを開けた。




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