春風、漫ろに舞う
十葵side



「…眠られましたね。」


「あ、本当だ。」



蒼樹にそう言われて。
バックミラーで確認すると、芽来ちゃんと若は寝息を立てていた。


…キツいこと、言ったよな。
たかが高校生に対して、なかなか辛辣な事を言った自覚はある。
だけど、俺だって守らねばならないものがある。



「でもほんと、すごいよね。
あれを見ても受け入れようって気になるなんて。
…俺は逃げ出すと思ったよ。」


「俺もそう思いましたよ。」


「…前に、若が言ってたんだ。
芽来ちゃんの声は、透き通ってるから聴き心地がいいって。
だけど、掻き消されやすい。
それでも俺だけは、どんなに小さくても気づくって。」


「確かにあの時…若の目は俺すらも映していなかった。
…だけど、芽来さんの声がした途端、目に色が戻ったんですよ。」



運転する蒼樹の横顔が少し、安心したように穏やかなのが分かる。


そりゃそうだ、これで毎日あの倉庫に通って若を止める必要もなくなった。
俺だけじゃない、うちの組員も。
やっと俺も落ち着ける。




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