春風、漫ろに舞う
藤雅side



規則正しい寝息を立て始めた芽来をベッドまで運ぶ。
華奢なその身体を抱きしめて、頭を撫でる。
寝顔が可愛くて、何枚か写真にも収めた。



「…可愛い。」



芽来は、だんだんと崩れてきている。
いや、もともと崩れていたものを無理やり形成していただけかもしれないが。
あそこまで、きてるとは思わなかった。


今回の海も、ずっと「行きたくない」と言っていたが俺の立場や体裁を考えて了承してくれたんだろう。
理由は大方、お袋と会うのが気まずかったとかそういうことだと思う。
優しい芽来らしいが、体裁や人の目を気にする彼女らしい行動だと改めて実感した。
元々、他の人間より繊細な芽来だからこその行動が、今日の中で沢山垣間見れた。



「俺といる時くらいは、何も考えずに笑っていてくれ…。」



お前がこっそり栄養補助食品食っていたのも。
海に入れない理由も、大浴場を嫌がる理由も。
俺と自分のシャンプーが違うことで、パニックになることも。
俺に体を許さない理由も、全部わかっているが…俺からは言えない。


芽来から、言ってくれるまでは。
全部に目を瞑る。
お前から、俺は聞きたい。
< 243 / 341 >

この作品をシェア

pagetop