春風、漫ろに舞う
病院に着き、すぐに芽来さんが居る病室へ案内された俺たちは。
まだ意識が戻っていないことを告げられた。



「…芽来…芽来…。」


「ここで出来ることは全部した。
後はこのお嬢ちゃん次第だ。」


「…そう、ですか。」



椅子に座ることもせずに、一目散に芽来さんの手を取りに行った若を気にかけつつ。
医者に、芽来さんのことを聞いていく。


若だって、聞いていないわけが無い。
俺だって気になる。



「ただ、この子…何回か繰り返してるだろ?
毎回医者で処置しもらってるかどうかも怪しいから、何とも言えん。」


「繰り返してる…?」


「なんだ蒼樹、気がつかなかったのか?
このお嬢ちゃんの左腕見てみろ。
こりゃ自傷行為の痕だ。」



医者が芽来さんの腕を指さす。
ほとんど長袖で隠されていた腕は、細くて今にも折れてしまいそうで。
管や点滴が通されて痛々しいが、その間から無数の切り傷らしい痕が見える。


知らなかった。
今まで、見る機会なんて無かったから。
…もしかして、あの時の海もそれがあったから水着に着替えなかった…?
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