春風、漫ろに舞う
「ねえ、わたしいつ帰れる?」


「医者曰く、目が覚めたら帰っていいらしい。
一緒に帰るか。」


「…うん。」



藤雅がお医者さんを呼びに言ってくれてる間に、身支度を整えて。
色々な説明を受けてから、蒼樹の運転する車に乗り込んだ。


十葵に会うのも、蒼樹に会うのも久しぶりで。
それなのに、こんなことしちゃったから合わせる顔がなくて気まずかった。



「あんまり、心配かけないでください。」


「…!…ごめん。」


「ほんとだよ〜。
蒼樹がらしくもなく慌てちゃってさ。」


「十葵!」


「…ごめんね、蒼樹。」



心配かけて、ごめんなさい。
確か一緒にご飯食べる約束してた日だった。

大事な約束してたのに。
そんな事ももう忘れるくらいに、この世から消えたくなってた。



「そうだ、帰ったらみんなでご飯食べようよ。」


「いいねえ〜!
蒼樹なんか作ってくれよ!」


「あ?無理。お前ら帰れよ。」



寄りかかっていた藤雅から、嫌そうな声がする。


わたしと2人で居たいって思ってくれてるのなら嬉しいけど、今日はみんなでご飯食べたい。



「芽来さんは、俺の作るドリアがお好きでしたよね。」


「そう〜!美味しいからあれ食べたい。」


「お前、和食が好きなんじゃなかったのかよ。」


「んー和食も好きだけど〜。
蒼樹のご飯食べるようになってから、洋食もいいかなあって思って。
あ、ハンバーグもつけてほしいなあ。」


「ふふ、承知致しました。」



初めて会った時に比べて。
蒼樹も随分、わたしの前で笑ってくれるようになったと思う。
表情が柔らかくなったというか。


やっぱり、2人でご飯食べたりしてたのが良かったのかなあ…。
そう思えば、藤雅と会えない寂しい時間だったけど良かったこともあったね。
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