春風、漫ろに舞う
「…っ…!」


「おっと…。」



芽来の家の前に車を停めて。
降りた途端、芽来が抱きついてきた。

ひんやりと冷えたその体は、風呂上がりからずっと外で待っていた事を物語っていた。
髪も濡れたままで、冷たくなってる。



「暖かくしてろって言っただろ…?」


「…会いたかったの…。」


「親御さんには話したのか?」



ふるふると首を横に振る芽来。
話すように促したかったが、俺から離れる気は無いようで俺の服は掴んだまま。


このままじゃ風邪をひきかねないから、上着を芽来にかけて、名残惜しいが芽来を車に乗せた。



「めぐー?
そろそろ部屋戻りなさい、風邪ひくよ……って、あれ?藤雅くん?」


「夜分遅くに失礼致します。」



玄関のチャイムを鳴らそうとした時。
芽来の母親が、ブランケットを片手に出てきたからこれはタイミングが良い。

俺を見て何かを察した母親は、困ったように笑った。



「ごめんなさい。
めぐったら、貴方を待ってたんだね。」


「電話が来たので。
彼女、泣いていたので何かあったんだろうと俺が勝手に来ただけです。」


「……そう。
ありがとう、あの子を大事に思ってくれて。
これ、めぐにかけてあげて。」


「お借りします。
お母様、芽来さんは…。」


「分かってる。言わなくても。
あの子、またやったんでしょ?」



俺が何を言おうとしてるのか。
分かった様子で、母親は悲しそうに目を伏せた。
< 304 / 341 >

この作品をシェア

pagetop