春風、漫ろに舞う
「…分かった。
帰ったらメール見てみる。ありがとう。」



宴会場から離れたところにある、一室を借りて柊との電話を手短に終わらせる。

幸いな事に、みんな宴会に出席してるらしく人気もなく閑散としていた。



「…やだ、ちょっと崩れてる。」



前髪、ちょっと乱れてる。
リップだってご飯食べたから落ちてる。


スマホを鏡代わりにして、軽く整えてから。
わたしは来た道を戻る。



「ーー大丈夫だったか?」


「うん。柊だったから。」


「…他の男と話すなよ。」


「ごめんね、もう終わったから。」



他の人と談笑中だったけど。
わたしが戻ると、すぐにわたしのところまで来てくれた藤雅と手を繋ぐ。


少しの時間だったのに、藤雅は寂しかったみたい。
可愛い。



「帰るか、芽来。」


「…いいの?」


「ああ。…俺と芽来はそろそろ帰る。
蒼樹、飲んでねえな?」


「勿論です。車を用意して参ります。」


「また来なさい、芽来さん。藤雅。」


「またね!芽来ちゃん!
今度はゆっくり甘いものでも食べましょー!」


「…ありがとうございます。
ご馳走様でした、美味しかったです。
失礼致します。」



手早く車を手配した藤雅は、わたしが終わるまで待っていてくれて。
わたしの腰に腕を回して、そのまま宴会場を後にした。


何かを話すこともなく、長い廊下を2人で歩く。
藤雅に寄り添いながら。



「良かったの?」


「あれだけいれば十分だ。
疲れただろ?…付き合ってくれて、ありがとう。」


「ううん。こちらこそ。
…連れてきてくれてありがと。」



多分、藤雅は。
わたしが途中から疲れてきてるのにも気づいていたから、ああやって切り上げてくれたんだと思う。

自分のやった事も、気にしていそうだから。
< 325 / 341 >

この作品をシェア

pagetop