春風、漫ろに舞う
「…さむ…。」



雪も降るんだ、寒くて当たり前。
いつまでもこんな所にいたって仕方ない。

帰らなきゃ、とは思ってる。
帰宅ラッシュで人の往来がさっきよりも増したから。



「…藤雅からだ。」



ぼんやりしていたわたしを引き戻すように。
ポケットの中で震えるスマホ。


電話もメッセージも、沢山来てる。
いつものお迎えも今日は、買い物したくて断ったから余計に心配してるみたい。


電話に出てみたけど、怒ってる様子はない。
むしろ、学校が終わってるはずなのに連絡が無いことへの心配だった。
…ほらね、思った通り。心配してる。



ーー「芽来」



「…ごめんね、心配かけて。」



電話を切って数分で。
藤雅は、わたしを迎えに来てくれた。
たまたま近くでお仕事してたのかな、駅前だし。
繁華街はもうすぐそこだから。


帰ろう、と手を握ってくれる。
車に乗り込めば、暖房が効いていて暖かい。
寒さの中にいた身体に染み渡る。



「あんなところで何してたんだ、寒かっただろ。」


「雪見てたの。
インスピレーション湧きそうだったから。」



作詞家だし、って笑ってみせれば。
藤雅は安心した顔で、風邪ひくなよって笑った。



「……嘘。」


「なにがだ?」



ああ、わたしのばか。
なんで言っちゃうんだよ。
そのまま、何も言わなければ良いのに。

余分なこと言わないでよ、わたし。


そう思う心とは反面、口から止まらない言葉。





< 329 / 340 >

この作品をシェア

pagetop