春風、漫ろに舞う
「雪見てたなんて、嘘。
本当は、帰りたくないって思ってたの。」


「……理由は。」



訝しげな藤雅の視線。
不安も見える、怒ってる…?違うね、悲しんでる。


藤雅をそんな気持ちにしたいわけじゃない。
止まってよ、わたしの口。
下手に不安を煽る必要ないじゃない。

言わなくていい事は、言わない方がいいの。



「嫌われたくないの、わたしは。
貴方にだけは…嫌われたくなかった。」


「…芽来?」


「だから、嘘でよかった。
嘘をついてでも、藤雅に嫌われない方が良かった。
なのに…なのに!
嘘をつくのは…藤雅に嘘をつくのはもういや…!」


「…話してくれるか、嘘なんていらない。
お前の言葉で、俺に伝えてくれ。」



抱きしめてくれる藤雅の腕の中で。
わたしは、わたし自身も触れたくない話をする。

母ですらも知らない、わたしの話。





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