春風、漫ろに舞う

ネメシア

わたしには、1人の兄がいる。
後に知ったことだが、お父さんの前妻の子。
つまり、連れ子。


それでも、わたしにとってはそんな事なんて関係ない。
大好きなお兄ちゃんだった。
年の差が10近くあるから、沢山可愛がってくれた。



「ーーめぐる。」


「ーー大好きだよ、めぐる。」


「ーー僕の可愛い大事な妹、めぐる。」



記憶の中を振り返れば。
兄はいつも、わたしにそう言って微笑んでくれていた。

名前の通り、澄んだ空気の春の訪れみたいな優しい顔。


そんな兄はいつも。
真っ白いピアノの前に佇んでいた。



「元々、兄は音楽の才に恵まれていたの。
音楽科のある高校に行っていたし、今思えば留学にも行ってたと思う。…家を空ける日もあったから。」



それが当時のわたしにとったら寂しくて、寂しくて。
いつも兄と遊んでいたから、兄と遊べないのも悲しいし。
お風呂も低学年の頃は兄と入ってたし。
兄がいない事が嫌で嫌で、毎日お母さんにいつ帰ってくる?って聞いてた記憶がある。
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