春風、漫ろに舞う
隣でにこにこしながら解説してくれる兄が。
その一瞬で、冷たい表情に変わったのは…今でも覚えてる。
子供心に、背筋がドキッとしたから。
まるで汚物を見るように蔑まられた目は、子どもに向けていいものじゃない。



「はじめは、それが誰に向けられたものか分からなかった。
だから…わたしがなにかしてしまったんだと思った。
すぐ兄に謝ったの、ごめんなさいって。
そしたらね、兄は言ったの。」



『めぐるは何も悪くないよ。
悪いのは…あの子だね。』



その意味も当時のわたしは分からなかった。
あの子が誰を指してるのかも。


それから数日後。
不幸な事故が起きた。



「…わたしが好きだった子が事故にあった。
トラックに轢かれて、命は助かったけど…下半身がぐちゃぐちゃになってたんだって。」


「…っ」



珍しく、藤雅が動揺してる。
ポーカーフェイスだけど、心臓の音が少しだけ早くなった。


わたしだって初めて聞いたときは、可哀想だと思った。
もうサッカーどころか、歩くこともできないって。
たまたまお母さんの勤めてる病院に運ばれてきてたから、1回だけ兄とお見舞いに行った。



< 334 / 340 >

この作品をシェア

pagetop