春風、漫ろに舞う
「……しかも。
その頃から、兄は…わたしに、触れてくるようになった。」



わたしは、成長が早い方だったから。
5年生の時点で、身体も女に近づいていた。

兄と2人きりになるのが、次第に怖くなって。
ピアノの部屋で、一緒におやつを食べるのも。
お昼寝したりするなんて、出来なかった。



「…ただのスキンシップじゃないって。
小さいながらに感じてた、分かってた。
おかしかったの、あのギラギラした目が怖くて、怖くて…。」



いやだ、やめてって。
何度伝えても、兄の手は止まらなかったし。
どんどんエスカレートしていくようにも思えた。


結論として、兄と一線を越えることはなかった。
それだけは阻止した。
絶対に、起きてはいけないことだから。



「それでも、わたしが中学に上がる頃には。
兄は海外で仕事を始めて向こうに居住を移していたし、会うこともほとんどなかったから事なきを得たんだけどね。」


「芽来ちゃんのお兄さんは何の仕事をしてるの?」


「ピアニストだよ。
海外で活躍してるし、それなりに賞ももらってるらしいよ。
……ほら、この人。」



スマホで、兄の名前を調べる。
1番上に出てきた記事をそのまま、十葵に見せた。
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