春風、漫ろに舞う
本屋で見た雑誌と同じだ。
兄を、天才だの貴公子だの、持て囃してる。
馬鹿馬鹿しい、うんざりだ。



「天上の音楽を奏でる、彩瀬清春|《あやせきよはる》。
まだ若き天才は何を想い何を語るのか…だって。
なんにも無いよ、この人には。」


「俺CD持ってます…。」


「えっ、そうなの蒼樹。
知らなかった…。」


「え、ねえ、芽来ちゃん。
これ…ここに書いてあるの本当なの?」


「ん?…ああ、うん。そうらしいね。」



十葵が指さすのは。
ネットニュースの最後の文章。
2週間後に日本公演を控えていること。


そう、なによりもこれが。
わたしが1番危惧している。
あの人が、帰ってくる。わたしの目の前に現れる。
何も知らない母は、兄が帰って来るのに合わせて、わたしにも帰って来なさいって。



「…そもそも、会いたくないし。
わたしに彼氏が出来たなんて知ったら、どうなるか…。」



小学生の頃とは違う。
わたしだって、あの時よりは出来ることも増えた。
だけど…兄の前で、取り繕えるか分からない。
動揺して、何も言い返せなくて何も出来なくなるかも。


だから、みんなに話した。
どうしたらいいかを聞きたかったから。
< 337 / 341 >

この作品をシェア

pagetop