春風、漫ろに舞う
大きな玄関を通って、どんどん中に進んで行くと。
1番奥の、和室の前で藤雅は止まった。


ここだ。きっと。
ここに藤雅のお父さん…一条組の組長がいらっしゃるんだ。



「芽来は俺の隣にいれば大丈夫だ。」


「…わかっ、た。」



戸惑うわたしをよそに。
藤雅は、慣れた手つきで襖を開ける。


中につられて入ると、上座には和服を着た男の人が座っていて。
その横には、女の人が撓垂れていた。



「一条組若頭、一条藤雅。只今戻った。」


「おう。…顔を上げてくれ、芽来ちゃん。」



胡座をかき頭を下げて挨拶をした藤雅を見て。
咄嗟にわたしも正座をして頭を下げると。
そう声が聞こえてきた。


え、わたしの名前…?
まだ名乗ってもいないのに…?


驚きも混じりつつ頭をあげると、渋いお顔をしたおじさんがわたしをみて困ったように笑っていた。
その隣にいる女の人も、くすくす笑っている。


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