モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 ピピはなにか伝えたそうにベアトリスの目線の高さに飛び始めた。どうやら森の奥に行きたいと訴えているようだ。

「だめよ。夜に移動するのは危ないから」

 ベアトリスがピピを両手でそっと掴もうとすると、ユリアンが「待て」と焦ったように止めた。

「クロイツァー公爵令嬢、どうやって精霊を呼んだんだ?」

 なぜかユリアンは驚愕している。

「あの、呼んだというより、この子はいつも私のそばにいるんです」

 ベアトリスは内心首をかしげながらも正直に答えた。

 ユリアンは目を見開く。

「ならば、ここに転移して来たときからクロイツァー公爵令嬢の服の中にいたのか?」
「は、はい」

 なぜそんなに驚くのだろう。困惑するベアトリスにユリアンが答える。

「この森に入ってからフェンリルを呼び出せない」
「えっ?」

 フェンリルとはユリアンの召喚する氷狼だ。

「不安にさせたくなくて黙っていたが、ここには精霊を排除しようとするなにかがある」
「あ……だからここが深淵の森ではないと気づいていたんですね」

 ユリアンの口ぶりは初めから断言に近かった。ベアトリスに言わなかっただけで確信していたのだろう。

(そういえば狼形の魔獣と戦っているときも、フェンリルを呼び出さなかった)

 呼び出したくても、不可能だったのだ。

(そんな中でも私をかばってくれたのね)
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