モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
(平然としているように見えるユリアン様も、内心は動揺しているのかもしれない。私の背中から手をどかすのを忘れてしまっているくらいだもの)

「あ、あのユリアン様、腕を……」
「あ、ああ。すまない」

 ベアトリスの言葉でユリアンは思い出したとでも言うように腕をほどく。

(やっぱり動揺されてるわ)

 完全無欠の王太子殿下も、思いがけないサバイバルには参ったらしい。

「ベアトリス、大丈夫?」

 ユリアンに遠慮して近づけずにいたカロリーネが、心配そうにベアトリスの様子を見る。

「ありがとう、大丈夫よ」

 同じようなやり取りを、ユリアンたちの方でもしているようだった。

「なにがあった? 今までどこにいたんだ?」

 ゲオルグの問いかけにユリアンが答えようとする。しかしふと空を見上げて、驚愕したように目を見開いた。

「……あれからどれくらいの時間が経っている?」
「そろそろ一時間になるが。あちこち捜しても見つからないから、応援を呼びに戻ろうと考えていたところだ」

 ゲオルグの言葉にベアトリスは「えっ」と小さな声をあげた。ユリアンは険しい表情を浮かべている。

「どうした?」

 様子がおかしいと気づいたゲオルグが眉をしかめる。

「いや、戻ったら話す。訓練は中止としてまずは森を抜けよう」

 ユリアンはベアトリスをちらりと見遣ってから、カロリーネを呼んだ。

「カロリーネ嬢。悪いが彼女の体力回復を頼む」
「はい」

 カロリーネはすぐにウンディーネを呼び出して、ベアトリスに術をかけてくれた。

 やわらかな水色の光に包まれると、それまで体を蝕んでいた疲労が徐々に消えていく。

「カロリーネ、ありがとう」

 カロリーネは微笑んでうなずくと、ユリアンのもとに行き彼の回復を行った。

 その後、急ぎ出口に向かう。討伐訓練も、聖女探しも中途半端な状況だがユリアンの顔に無念さはなく、それより別のことに気を取られているようだった。

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