モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
惹かれていく
ダールベルク王国王太子の執務室。
ユリアンは届いたばかりの報告書に目を通すと、ほんのわずかだけ顔を曇らせた。
ベアトリスとふたりで迷い込んだ森について、信頼出来る部下に調べさせているがいまだなにも判明していないのだ。
ユリアンに続いて報告書を読んだゲオルグとツェザールも、同じような反応をしている。
「深淵の森に転移の魔法陣があったという記録も情報もないか……。どうなってるんだ?」
ゲオルグが眉間にシワを寄せる。
「ないわけがないんだよ。俺たちはこの目で、ユリアンたちが飛ばされるのを見たんだからな」
「そうだな。しかも転移が恐ろしく速かった。かなりの力を持った魔導士が作った魔法陣だと考えられる」
「そうだな」
ユリアンは相づちを打った。ゲオルグの言う通り、あの魔法陣はユリアンが反応出来ないほど発動から転移までがあっという間だった。それに、謎の森にいる間に日が沈んだが、戻ってみると一時間経っただけだった。なんらかの力が働いたのはあきらかだ。
「引き続き調べさせてくれ」
「すでに指示してある」
ゲオルグと会話をしていると、不満そうなツェザールの顔が視界に入った。
「ツェザールどうしたんだ?」
「あの女に罰を与えないでいいのか?」
「罰?」
ツェザールの言う〝あの女〟がベアトリスなのはわかるが、なぜそんなことを言いだすのか。
ユリアンの反応にいら立ったのか、ツェザールが感情を爆発させる。
「あいつが突然つまずいてユリアンを突き飛ばしたから魔法陣に入ったんだ! いくら公爵令嬢でも、王太子を危険な目に遭わせたんだから無罪放免ってわけにはいかないだろう?」
ツェザールの思いがけない発言に、ユリアンはわずかに目を見張る。