モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
彼は決して洞察力がないわけではない。ただベアトリスに対しての悪感情のあまり、なにもかも悪く受け止めてしまうところがある。
それはツェザールだけでなく、学院の生徒にも言えることだった。多くの者がベアトリスの悪行を知っていて彼女を恐れている。自身や近しい者が被害を受けた者は、恐れを上回る怒りを持っていた。
彼女を疎ましく思っている者はかなり多い。ユリアンも婚約者でなかったら決して関わりたくはない人物だと思っていた。
なぜ筆頭公爵家という恵まれた家に生まれ育ちながら、責任感を持たないのか。どこまでも自分の欲望だけに忠実でいられるのか理解が出来なかった。
しかし彼女はある日を境に変化した。控えめで気遣いがある優しい女性に。
滲み出ていた傲慢さはすっかり影を潜めている。
初めは演技かと疑ったが、今となっては絶対に違うと言える。むしろ現在の彼女が本物で、今までが偽りだったような気さえするのだ。
(いや、でも以前の癇癪も本気だったな)
学院内で召喚式のエスコートを頼まれてユリアンが拒否した際もベアトリスは怒り、目をつり上げていた。あのとき彼女は興奮しすぎたためか頭痛を訴えてうずくまり急に静かになったが、もしそうでなかったらユリアンが強引に黙らせるしかない状況だっただろう。
その後、断ったはずのエスコートをまた依頼する手紙が届いたため、ユリアンは断りの返事をしたためて使者に託した。その騎士が公爵家に手紙を届けたときのベアトリスの反応は本当にひどかったという。
感情を爆発させるように大声で喚き、物にあたる姿を見て、令嬢の振る舞いとは思えず戸惑ったと報告を受けた。
(そういえば、彼女がわがままを言うのを見たのはあれが最後か)