モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 使者から話を聞いた翌日、召喚式で見たベアトリスの言動には不審な点があるものの、最初から最後までおとなしく情緒が安定した様子だった。その日以降は真面目に学業に取り組み、孤児院の支援まで進んでして。

(まるで別人だ)

 外見だけは以前のベアトリスと変わりないが、中身はまったく違う人格になったと思わせるような、それほどの変化。

(そんなことあるわけないが……)

 ここ最近度々浮かんでくるそんな考えを下らないと否定しようとしたそのとき、ふと強い違和感を覚えた。

『この大きな洞がある木を横目に進むと、けものみちがふた股に分かれているはずなんです』

 強制転移した森の中で、ベアトリスは突然景色に見覚えがあると言いだした。

 だが彼女は幼い頃ユリアンの婚約者となったときから、国外どころか王都からも出たことがないはずだ。

(いったいいつあの森に行ったというんだ?)

 婚約が決まる前だろうか。あまりに幼かったから覚えていない点が多いのか?

 それにしては道案内をする様子に迷いはなかった。かと思えば転移先を知らないと言う。

 しかも彼女は討伐訓練を行う深淵の森の奥深くに行くのは初めてだと言っていた。つまりユリアンたちが使った転移の魔法陣を使う以外の手段で、謎の森に行ったということになる。

 考えてみるとなにもかもがおかしい。

(そもそもなぜ彼女はまともに魔法が使えないんだ?)
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