モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
前世を夢にみる
孤児院の経済事情はかなりシビアだ。国と貴族からの支援が主な収入源だが、それだけでは十分ではないからだ。
足りない分は家庭菜園や町の仕立て屋などから請け負った手仕事の報酬で補っているが、今月は成果が思わしくなく、毎日の食事を確保するのも厳しい状況だった。
ロゼ・マイネは十六歳で孤児院を卒院してからも、仕事の合間に度々出入りし手伝いをしていた。
宿屋での賃金はあまり多くないので食料を買ってあげられないが、代わりに森まで足を延ばし食べられるきのこや木の実、芋などを採り子ども好みの味に調理したりと工夫をしていた。
ロゼにとって孤児院は、物心ついた頃から暮らしており実家のようなもの。院長とシスターは親代わりでもある。そうやって手伝うことはまったく苦に感じなかった。
その日ロゼは夕食用の肉の少なさを補うために森に入り、てきぱきと芋を掘り起こしていた。火を通し、濃いめに味つけをすると満足感のあるおかずになるのだ。
全員に行き渡るようにせっせと芋を掘り、そろそろ帰ろうとしたとき、幼い子の泣き声が聞こえた気がして足を止めた。
立ち止まり耳を澄まして声の出どころを探る。
この辺りは森の入口近くだが、それでも道を外れると方向感覚がわからなくなり迷う可能性が高い。とくに子どもは危険だ。
しばらく様子をうかがっていると、再び細い泣き声が聞こえた。
『こっちだわ』
ロゼは今度はしっかり方向を捕らえて、声の方に向かう。幸い森の中の道からそれほど外れていない場所だったのですぐにたどり着いた。そこにはとても小さな、三歳くらいの女の子がいて木に隠れるように佇んでいた。
初めて見るが、近くの民家の子ではないと確信した。