モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
「実は私も何度かそう思いました。あの子の変化はあまりにも劇的だ。けれどふとした拍子に見せる仕草や表情は、間違いなく幼い頃からそばにいた妹のものなんです」

 ランベルトはなにかを思い出しているのか、懐かしそうに目を細める。

「俺は……よくわからないな」

 かつてのユリアンはベアトリスに対してたとえ嫌悪だとしても強い感情を持っていたのに、彼女について知らないことが多かった。

「兄の目から見ればあの子は別人などではなく、私たちの大切な家族のベアトリスですよ。ただ召喚式の前になにかあったのは確かでしょうね」

 ランベルトの表情に影が差す。おそらくすでにその頃のベアトリスの行動について調査を進めているのだろう。

(召喚式の数日前にベアトリスに呼び出されたな)

 ユリアンは当時の記憶を呼び起こす。



『王太子殿下!』

 学院の渡り廊下を歩いていたユリアンを、ベアトリスが甲高い声をあげて追ってきた。

 怒っているのが伝わってくる、淑女らしからぬ忙しない足音。

 ユリアンは学院内でひとりになることは滅多にない。基本的にゲオルグとツェザールと行動をともにしているからだ。

 それなのにベアトリスは単独行動のときにタイミングよく声をかけてくる。毎回毎回。

 ユリアンはうんざりしながら、足を止めて振り返る。するとベアトリスはほっとしたような顔をして、それからなにかに挑むようにユリアンを見つめた。
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