モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
『クロイツァー公爵令嬢、騒々しいぞ』

 彼女の顔を見るとつい小言がこぼれる。我ながら口うるさいとは思うが、注意しないとベアトリスの行動がますます身勝手なものになるのを知っているからやめられない。

 ベアトリスは一瞬顔をしかめながらも、いったん口を閉ざした。わがまま放題の彼女もユリアンの言うことには多少は従う。
 彼女は咳払いをしてから、ユリアンをじっと見つめた。

『王太子殿下、召喚式の件ですが』

 ユリアンはうなずく。数日後に迫った召喚式は、学院の生徒皆が今一番関心を寄せている事柄だ。ベアトリスも強い精霊を呼び出すのだと大層張りきっていると聞いている。

『婚約者としてエスコートをお願いしたいのです』
『エスコート?』

 予想外のセリフに、ユリアンは眉間にシワを寄せる。ベアトリスはそんなユリアンの反応に気づきもせずに、舞い上がった気持ちを表すように声を高くする。

『そうです。私と王太子殿下が並んで入場したら召喚式の格が上がるはずです。想像するだけで素晴らしいでしょう?』

 楽しそうなベアトリスに、ユリアンはうんざりとため息をついて答えた。

『召喚式に臨むのにエスコートが必要など聞いたことがない。そんな生徒はほかにいないだろう』
『そうですね。ですが私たちは特別です。王族と公爵家の強い結びつきによる婚約者同士なのですから』
< 156 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop