モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
◇◇
ベアトリスは大きな目をぱちりと開いた。ルビー色の瞳が映す視界には、見慣れた天蓋が映り込む。
自室のベッドだと認識して、はあと息を吐き出した。
「またあの夢を見たわ」
最近よく見るロゼ・マイネだった頃の夢。
ただし夢に出てくるのは楽しかった思い出ではなく、あまり覚えていないような場所や人物。夢の中では大抵非常事態に陥っている状況で、強い不安を感じている。
いつもその感覚のまま目覚めるので、寝起きだというのに心拍数が激しく、運動をした後のように体が汗ばんでいる。
ベアトリスは浴室に向かいながら、見たばかりの夢について考えていた。
(今日の夢では必死にどこかに向かっていたな。あれはなにをしているところなのかしら。薪箱に誰かを隠していたみたいだけど)
まったく覚えていないが、実際前世で経験したことなのだろうか。
それとも、討伐訓練の際に森をさまよった経験が恐怖として心の深いところに植えつけられており、夢として表れるのか。どちらにしても、出来れば二度と見たくない夢だ。
しっかり睡眠を取ったとは思えない気だるさを感じていると、静かな足音が聞こえてくる。
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう、サフィ」
彼女は毎朝同じ時間に、ベアトリスの朝の身支度を手伝うためにやって来る。
だからベアトリスの変化に敏感だ。
「お嬢様どうなさいました?」
ぼんやりしている様子が気になったのだろう。心配そうに眉をひそめる。